ポンポオ氏発言に関するFAKE報道覚え書き
■モンタージュによる錯覚
なぜこんなことになったのか?現象的にはモンタージュによる錯覚により、誰もが騙されてしまったように思われる。
モンタージュとは、『戦艦ポチョムキン』などで知られるソ連の映画監督エイゼンシュテインが提唱した映像理論で、あるシーンAと、それと何の関係もないシーンBとを連続して繋ぐことにより、映画で物語を語ることができるようになるというものだ。
例えば、シーンAで無表情な女性の顔のアップ、シーンBで花が供えられた墓、そしてシーンCでもう一度無表情な女性の顔のアップを繋ぐことで、家族を失って悲しんでいる女性の姿を描くことができるというもの。
初発と思われるロイターの記事で見てみると、
まず第一段落で「米政府高官は…一定期間、現状維持して交渉する協定への署名を求める仲介案を提示したと明らかにした」と来て、
第二段落で「ポンペオ国務長官は8月1日にバンコクで予定する日米韓外相会談で、河野太郎外相と韓国の康京和外相と仲介案について話し合う方針。」と続く
モンタージュ的にはポンペオ氏はあたかも米政府高官の言う現状維持協定について話し合うかに見えてしまう。
これを踏まえ、第三段落に至っては「日本政府は…韓国を除外する政令改正を2日にも閣議決定するとみられており、米側はその前に仲介に乗り出し、一層の対立激化の回避を狙う。」とまで書いている。実際には日付まで違っていて、ここまで書けばモンタージュ以上の立派なFakeだ。
よりわかりやすいのはBloombergの記事だ。
少し上で引用した8月3日午前00:07の読売の記事によれば
「ポンペオ氏は「日韓両国とも米国の大事なパートナーだ。両国が話し合って問題解決に向けて努力してほしい」と述べた。」とあるが、これはBloombergの記事と同じ内容の発言と思われる。
ポンペオ氏の元の発言。
そして同じ記事の中で、このポンペオ発言はワシントンの政府高官の"現状維持協定"発言のあとに出たと書かれている。
終わってからみれば、米高官発言に見る「現状維持協定案」は、ポンペオ国務大臣の「促す(urging)行為」とは別物だったと言うことがわかる。が、そこに至るまでの間、メディアを含む大多数の人間がこのモンタージュで錯覚してしまったと言えるだろう。
■伝言ゲーム?意図的なFake?
「米国務省当局者」は「双方に責任がある」「ここ数カ月の間に両国の信頼を傷つけた政治的決定について自己分析が必要だ」と指摘。
https://twitter.com/jda1BekUDve1ccx/status/1156398675569983488?s=20
日
ロイターの記事を見ると、情報源はワシントンの共同通信のようだ。
ところがその共同通信は「ロイター通信が伝えた」と報道したようだ。
記事によると、「ポンペオ国務長官は8月1日にバンコクで予定する日米韓外相会談で、河野太郎外相と韓国の康京和外相と仲介案について話し合う方針」とのこと。因みにこの記事、しばらくの間webで読めなくなっていたが、午後か翌日かにweb記事として復活した。
その日の午前中に各メディアから情報が流れたが、それら各記事に共通して登場するのは匿名の「米政府高官」とされる人物だ。Bloombergによれば、米政府高官は「トランプ政権は日韓両国が交渉の部屋に自ら入るための"現状維持協定"を結ぶよう強く促す」と発言したらしい。
Trump administration was urging the two sides to reach a “standstill agreement” to give themselves room to negotiate.
これに対し、菅官房長官が米国の仲介案提示を否定。
米の日韓仲介提案、菅長官「そのような事実ない」 : 政治 : 読売新聞オンライン
www.sankei.com またTwitterでは、葉月二十八氏 @haduki28th により、アメリカ国務省公式のポンペオ国務長官の最新ブリーフィング資料にも、ポンペオ氏が日韓に仲介案を提示した等という記述がないことが指摘されていた。 https://twitter.com/haduki28th/status/1156442434525528069?s=20
さらに、Wall Street Journal誌はアメリカが仲介に乗り出すとする記事は最後の最後まで一切報じなかった。
ところが、その後もポンペオ氏が日米間外相会談を開き、米政府高官がいう"現状維持協定"を結ぶよう強く促すかの記事が世の中に溢れかえってきた。
「ポンペオ氏は東南アジア諸国連合(ASEAN)関連外相会議でバンコクに向かう機中、日米韓3か国による外相会談を行う見通しを明らかにし、「日韓両国に前向きな道筋を見つけるように勧める」と意欲を示した。これに関連し、米政府高官は7月30日、読売新聞の取材に対し、新たな強硬措置を控える「休止協定」への署名を日韓両国に提案したことを明らかにした。」 「ポンペオ米国務長官は31日、米国の2大アジア同盟国である日本と韓国の外相と今週バンコクで会談する際に、両国間の外交摩擦の解消に向けた「道筋を見いだす」よう促す方針を明らかにした。」
「アメリカが両政府に対し、対立の原因となっている措置をいったん停止し、貿易問題について協議するよう促したと一部のメディアが伝え、今後、日韓がどのように対応するかが注目されます。」
「 ロイター通信は、米政府高官が30日、日韓が交渉を通じて対立を解消する協定に署名するよう提案する考えを示したと報じた。日本は輸出管理の優遇対象となる「ホワイト国」から韓国を除外する方針だが、提案は「現状の維持」を求める内容で、事実上、ホワイト国の除外手続き停止を求めた形となっている。 」
2019年8月1日、関西の朝の情報番組「す・またん」にて、ニュース解説担当の野村明大氏は、朝日新聞の記事を引きながら「ポンペオ氏が徴用工賠償を韓国政府に飲ませることに成功したら日本政府の外交的勝利になる」という内容を発言。
このことに関し野村氏は「菅官房長官は提案は受けていないと言っているが、受けたことを認めれば断れなくなるので知らないと言っているだけだ」「報道各社はワシントンで取材し、匿名政府高官が仲介すると言ったことを確認している」というような内容の発言をした。
野村氏の発言に象徴されるように、メディア各社は既に米国による日韓紛争休止協定提案は行われたと言う前提に立ち、日本政府はどのように交渉を乗り越えるべきかという報道合戦を繰り広げる恰好になっていた。
ところが、実際には、2019年8月2日午前10時40分頃、日本政府は韓国をホワイトリストから除外するとあっさり閣議決定、その日の夕刻、確かに日米間三カ国外相会談は行われたものの、ポンペオ氏は日韓両国が話し合いによる問題解決を目指してほしいという以上のことは発言しなかった。
さらに日本外務省幹部は「これまでも提案されていないし、今回の会談でも提案はなかった」と米政府高官発言を全否定した。つまり、ポンペオ氏が日韓に現状維持協定を締結するよう促すというのは根も葉もない情報、即ち所謂Fakeニュースだったことが濃厚になった。
ポンペオ氏「日韓が話し合い問題解決に努力を」
「ポンペオ氏は「日韓両国とも米国の大事なパートナーだ。両国が話し合って問題解決に向けて努力してほしい」と述べた。米政府高官は日韓双方に新たな強硬措置を控える仲介案を提案したことを明らかにしていたが、日本外務省幹部は「これまでも提案されていないし、今回の会談でも提案はなかった」と説明した。」